2019/11/18
「左官工による透水性コンクリートが美しい秘密」技能五輪見学(その2)

今年、来年と2か年にわたって愛知で開催されている左官技能五輪に参加した。「左官工による透水性コンクリートが美しい秘密」。匠のひよこたち(10代後半から20代前半)が競い合う特殊技能「左官」がこれからの透水性コンクリート普及の鍵を握る。
がんばれ未来の匠たち!!
愛媛県から出場された方の作品。
モールディングの中には火の鳥が土で描かれている。
鏝(こて)を用いての造形。
作業を見守る愛媛県の梶田建設(松山市)の梶田社長によれば「自然に還る」原料土でつくった塗り壁は調湿効果、断熱、保温などの効果がある。
ヒトと暮らしに優しい。
さらに、美術品として見る者の目を楽しませる。
梶田さんは地元松山市で個展を開きその美と環境と密接に関わる左官、塗り壁の普及活動に勤しんでいる。
イワタプラスター岩田裕二社長の息子さんの手による作品。
なんと普段は人文学の大学に通っている学生だそうだ。
しかも、2ヶ月前課題発表の際に初めて鏝を触ったという。
血は争えないということもあるのかもしれない。
とても2ヶ月駆け出しの作品とは思えない。
僕の目にはまるでわからなかったのだが、お父さん(岩田社長)は厳しく細かい部分の指摘をされていたのが印象的だった。
こうして凹凸を造形し立体的に影を落とすこともできる。
また、こんな風にもじを描くことも。
なんて多彩なんだろう。
それも、これら全ては匠のたまごたちの作品。
以上が、ノミネート全作品。
いずれも個性的でとても駆け出しの手によるものとは思えない。
今日の表彰式まできっと評価者の議論は割れることだろう。
生コン打設技能五輪って無いのはやっぱ変。
技能五輪を見渡してみて左官の他に木工や洋裁など「ものづくり」のいくつかが技を競い合っていた。
そういえば、
「生コン打設」
も技。
なのに、気配すらない。
やらない理由を挙げ出せばキリはないかもしれない。
ただ、左官という職能が世間にこれだけ認知されていて、実際にその技が一際輝いているのは、技能五輪のような「競い合う場」の存在とは無関係ではないと思う。
現場、実務の外にこうした技を競い合う場がある。
世間や熟練者の評価にさらされる。
一方、生コンはそうした外からの評価になかなかさらされることはない。
内向き業界内の噂話やら、価格交渉やらでしか評価されていない。
だからって、「じゃあ、生コン打設甲子園」みたいな短絡的な発想が正しいとは言わない。
それでも、なんらかの「外部からの目にさらされる」というのは必要なことだと思う。
「垢抜けなかったアイドルも群衆の目にさらされることによって綺麗になっちゃった」
みたいなことって生コンにもあるはずだと思うのだ。
透水性コンクリートは外部と生コンの架け橋になれるはず。
生コンは70年来評価を内側に求めていた。
JIS規格
JASS5
土木学会標準法書コンクリート編
これらは学会をリードする学者らが安全・安心のインフラに求められる耐久性や強度を規定するものだ。
もちろん、世間、市場と顧客のため、ということになる。
安全性はもちろんもっとも優先されるべきことではあるけれど、価値観の多様化する現代、業界内のものさしだけでいいものだろうか。
JIS規格のない透水性コンクリートが加速的に普及し始めている現象をどう捉えたらいいのだろう。
けっして業界をリードする学会の評価で売れているのではない。
業界の偉そうな先生に見向きもされていなくとも、市場と顧客には評価されている事実を。
その意味で、内向きの生コン産業にあって透水性コンクリートは外部(市場と顧客)との架け橋になれるのではないだろうか。
「見た目」
「美」
という新たに求められる性能を持つ製品。
そして、それを具現化してくれる左官をはじめとした施工者たち。
価値観の多様化する未来。
時代の風を見誤らないようにしていたい。
抽象的で捉え所のない「美」を扱う左官という技を眺めていて固定的ではなく流動的な価値に対しての感性を見失わないよう気をつけたいと感じた。
それが、生コン産業再生の鍵の1つになるように思う。
宮本充也