2017/02/11
「腐敗の象徴 モーセ・プロジェクト」 技術・公共事業・サイトPC
本来はもう完成している頃。
世界に誇るべき、モーセ・プロジェクト。
ベネチアは地盤沈下と、上昇水位に、悩まされてきた。
アクア・アルタと呼ばれる自然現象の時には、
沈下する地盤と相まって写真のような状況となる。
ここまでひどい経験はしたことはないけれど、
何度か冠水しているサン・マルコスクエアを見たことがある。
世界遺産でもあり個人的にも愛してやまないベネチアが浸食されていくのは、
とても忍びないことだ。
その打開策として、モーゼ・プロジェクトがあった。
イタリア政府の肝いりで始まった大規模公共事業、
可動式の堤防が上昇しラグーンに流入する潮を止める。
この超ビッグプロジェクトを一目見ようと、
数年前地元土木業で友人の大矢氏と現地をボートで訪ねたことがある。
MAPEIとの正式な契約があったころだからもう5年以上も前だったと思う。
上図にある可動式の堤防はサイトPC(現場プレキャストコンクリート)といって、
現場近くで施工されるコンクリート構造物。
中空になっていて水を入れたり抜いたりして開閉をする。
そのサイトPC打設の現場は超規模でもちろん、
MAPEIの混和材が入っているということもあり、
日本から来た僕たちでもその世界に冠たる、
イタリアの技術力を目の当たりにすることができた。
技術を志す僕たちにとっては鮮烈な思い出となった。
一部報道にもあったことだが、このモーゼ・プロジェクトは、
現在暗礁に乗り上げてしまっている。
政治家たちの汚職が芋づる式で立件され、
且つそのわいろのための資金を捻出すべく、
開閉式堤防の一部の冶具(金属)に低品質な金属を採用したことで、
供用開始前だというのに錆被害が深刻化し、
すでにメンテナンスに膨大な費用が掛かっているという。
まさに、超深刻な公共工事の汚職事件となっている。
世界に誇るが一転最悪の恥をさらすプロジェクトに成り下がってしまった。
アクア・アルタは10月からちょうどこの時期2~3月くらいまで。
今回の訪問では幸運なことに冠水は起きていないものの、
現地に住むジョルジオさんから聞いた上記の出来事は日本人の僕でさえ、
とても残念に思う最低な事件だ。
技術を志向するさらに若い人たちの夢を奪う行為というか、
日本でもその手の事件がたびたび話題となっている。
国家も長くなるといろいろなところに歪が生じるかもしれない。
しがらみの延長というか、理屈ではどうにもならない部分。
既得権益が本来のリニューアルを阻み、
国益よりも特定の団体の利益を優先するような現象。
これは、イタリアだけでなくどこの世界にもあると思う。
これは仕方のないことなのだろうか。
それこそ僕たちのような民間の企業で、
産業ヒエラルキーでは最下層にいるような存在では何もできないかもしれない。
ただ、あれだけ胸踊らされたモーゼ・プロジェクトへの夢。
こんな形で裏切られるなんて、いい年した僕ですらかなり悲しい。
イタリアや我が国日本のような成熟国家において重要なことは、
既得権益を守り少しずつ沈没していく国家を先延ばしにするのではなく、
若い後進が素直な夢や希望を見ることができて、チャレンジできる国家。
そんな国家を将来に見せてあげることだと思う。
実に当たり前のこと。
夢と希望のあるチャレンジが許される国。
日本の建国記念日にベネチアで走りながら考えていたのは、
おおむねこんなことだった。
なんちゃって。