2020/03/10
【三嶋大社舞殿改修工事・電磁波レーダによる現況調査】
調査・診断業務に行った時ほど、
「経験」×「知識」=「知恵を含む総合力」を求められると実感する。
大手ゼネコンが受注した「文化財改修工事」
今回は、地元ゼネコンが1次下請けとして、NRへと仕事を依頼してきた。
大きな現場に、いち作業員として入場するのは久しぶりのこと。
こういう時こそ、かつて建築・土木で培われた度胸(とハッタリ?)が物をいう...
現場はいつだって「緊張」と「緩和」のくり返し。
そこに織りなされるのは、筋書きのないドラマの数々。
それらは時に厳しく、時にほっこり。
程よい知的疲労を提供してくれるものであった。
・新規入場者教育
朝いち現場事務所へと着くと、地元ゼネコンの担当者から書類を一式手渡される。
「これ、新規だから受けてきて。俺もここ、昨日からだからよく把握していない...」
一日でも早く入場した業者(人)が、現場では主導権を握る。
たとえ半日でも、2時間でも、先に入った人の指示に従うことが、すべての第一歩。
いざ、言われたままに、元請けの待つ事務所へと訪れると、
「今日、担当者が不在だから...」と所長自ら新規のパンフレットを片手に説明をはじめた。
つらつらと話を聞きながら、15分ほど経ったか。
終わりしなに所長が、とある「なぞかけ」(?)を振ってきた。
「ところで<3・3・3運動>って知っていますか?」
「.........!?」
これは、何か試されているのか...?
それとも全員に問いかけるルールなのか...?
このゼネコンでは、何か統計でも取っているのか...?
息をのみ緊張が高まる。
所長の目を見つめなおしながらも、思考が高速回転しているのが分かる。
「<3・3・3運動>.........ですか?」(時間をかせぐ)
「あの<玉掛>時に行うやつですよねぇ」(ええっと何だっけ...)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ.........
目をつむりながらも、視線は左上へと移動する...
「地切って3秒、30センチ、3メートル離れる?」
出てきた言葉は、順序も流れもめちゃくちゃ...
しかし所長は満足そうな表情をこちらへと向ける。
「はい、OK!」
後から知ったが何のことはない。
その週の「安全周知事項」が<3・3・3運動>だったようだ。
荷役作業のない業者にまで行う所、さすが普段<新規>などやらない所長である。
朝一番から現場ならではの洗礼を受け、いざ朝礼会場へ。
そこでは、そんなのまだ序の口だったということを、思い知ることとなった...
・協力業者一斉朝礼
現場内、自分は下請けだからといって油断していてはいけない。
事故防止という名目は、否応なしにすべての作業者を渦中へと誘う。
なんとここの朝礼。職長のみならず、いち作業員にまで発言を求めてくる。
その日の周知事項が話された後、反時計回りにそれぞれが今日の作業内容を発言しだした。
「○○建設、本日の作業内容は.........」(.........!?)
「△△土建、本日の作業は.........」(え、これ回ってくるぞ、絶対...)
「◇◇警備、本日は.........」(えっと、何だ何だ、今日は何するんだっけ...)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ.........
隣の人が発言を終える。さぁ来た。
目を見開いて、肚を据える...
「長岡生コン本日の作業は、舞殿床下に潜っての鉄筋探査。狭い場所での作業なので頭上注意・足元確認で作業を行います。監督1名、作業1名、うち新規1名です」
口からは出てくるもんである。(経験とは、かくも脳裏に沁みつくものかと感心!)
ひと息で語りつくすと、その場では何もなかったかのように次の人へと順番が回っていく。
皆の作業内容が共有された後、所長の掛け声が広場に響く。
「さぁ、今日も安全作業で頑張るぞ!」「おう!」
お決まりの文句で朝礼は締めくくられ、各作業員は持ち場へと散っていく。
あぁ、この現場の雰囲気、空気感。久しぶりに体感しているなぁ...
・床下潜入、鉄筋探査
「あそこの土台は既存のまま残しね」
「こっちの大引きは補強して交換かな」
「根太は可能な限り再利用するらしいから」
直属の地元ゼネコン監督は、早口でその場の状況を説明してくれた。
「俺もこっちから墨出ししていくから、何かあったら声かけてくれ」
何だか懐かしい建築用語の数々。
この現場。文化財クラスなだけに、それぞれの部材がワンランク大きい。
根太が大引きサイズ。大引きが土台サイズ。土台に関しちゃ、ゆうに6~7寸はある。
床下に潜りながらも周囲を眺める。創建当初に刻んだ技が、かの職人の手腕を物語る。
鉄筋探査をしていると、とある事実にぶち当たった...
「監督さん、ちょっといいですか?ここが○○○で◇◇◇なんですけど...」
「あぁ、本当だ...」
監督もその状況をすぐに理解したようで、言葉が詰まる。
「ちょっとこれさぁ...。元請けの所長呼んでくるから、直で見てもらって説明してくんない?」
「いえいえいえいえ!それは監督の役目。お願いしますよ~」と断りたいところ...
とはいえ、結局、同じ説明をくり返すのだろうから、承諾せざるを得ない。
「分かりました、じゃあ呼んでもらってもいいですか?」(あぁ、またあの所長かぁ...縁があるなぁ)
別件があったのか、1時間ほど経ってから所長はやってきた。
「ちょっとぉ、○○○ってどういうこと?」所長の語気は疑問に満ちている。
来たぞ~!緊張感を飲み込んで、ひと呼吸...
直属の監督に目配せをしてから、説明をはじめる。
「恐らく原因は、◆◆◆◆です。その根拠は3つあります」
「はじめに、△△△△。そして、◇◇◇◇。で、さらに○○○○」
「以上のことから、たぶん◆◆◆◆なんじゃないかと推測されます」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ.........
その場を数秒間、沈黙が支配した。
「よし、分かった」
それ以上は何も語らずに、所長はその場を去っていった。
その後も作業を続行し、結果的にはやはり◆◆◆◆だと思われた。
監督も共に鉄筋探査を一巡見届けたので、その結果に納得する。
「まぁ、元請けの所長さんにも見てもらったから、問題ないでしょう!」
「そうですね。お疲れ様でした!また、次の機会にもよろしくお願いしま~す」
かくして、「緊張」と「緩和」をくり返す一日の幕は閉じられた。
程よい知的疲労にまみれ、帰路に就きながら考える...
昭和をこえて、平成こえて、
またぐ世紀に、技のこる <三嶋大社舞殿にて>
大改修後は銅板も葺き代わり、黄金色に輝く「舞殿」が姿を現すことでしょう。
足場が外れる頃に、また来よう。文化財に着手できた経験に、感謝感謝!
NR試験室 二見