2020/10/05
事業承継の発生と管理会計の導入「鼻毛ボーボーで外出するモデルはいない」
今回の記事は普段と一味違った「経営」に関するもの。生コンなどコンクリートテックの開発も技術者やラストワンマイルの活躍も全てはベースに経営がある。経営・会計学の専門家で友人でもある明星大学中島洋行教授の研究論文に生コンポータル運営会社の有限会社長岡生コンクリートの事例が紹介された。管理会計についての振り返り。
中小企業会計研究 第6号
https://www.jaasme.org/sitedat/wp-content/uploads/2019/08/2020_08_no006.pdf
事業規模の拡大および組織の複雑化によって,中小企業においても財務会計だけではなく 管理会計を新たに導入したり,既存の管理会計システムを見直したりする必要がある。しかし,日本管 理会計学会スタディ・グループが 2015 年に実施したアンケート調査の結果によれば,中小企業における管理会計の新規導入あるいは見直しが十分に行われているとは言い難い。中小企業にとって管理会計 を新たに導入したり,既存の管理会計システムを見直したりすることは経営上の大きな転換点であり, このような経営改革は何らかのきっかけを契機として行われることが多い。そこで,本研究ではそのきっかけとして事業承継に注目する。事業承継の発生によって経営者が交代する時は,先代経営者の時代と比べて新しいことに取り組もうとする機運が高まる時期でもある。
本研究では,海外の先行研究レビューに基づき,「中小企業における事業承継の発生は,管理会計の 新規導入または見直しを図る契機となりうるのではないか」というリサーチクエスチョン(Research Question:RQ)を設定し,この RQ について検討するために,栃木県信用保証協会および有限会社長岡生コンクリートへのインタビュー調査を通じて,事業承継の発生と管理会計の導入および見直しとの関係について考察する。2 つのインタビュー調査結果より,事業承継の発生時に,管理会計の導入およ び見直しを促進する要因として,事業承継者が管理会計に関心があること,現経営者も管理会計の重要 性を理解して導入を側面からサポートすること,さらに管理会計の導入を事業承継者と共に一緒に進められる人材が社内にいることの 3 つの要因があり,これらの要因ができるだけ多く満たされることで, 事業承継の発生が管理会計の新規導入または見直しを促進する契機になりうる可能性もより高まること が明らかになった。
⚫︎参考1:森会計事務所
⚫︎参考2:未来経営塾
⚫︎参考3:OPTius
⚫︎参考4:教授 中島洋行
「数字が苦手」な僕を助けてくれた管理会計
「会計」は経理や財務の部門、あるいは経営管理者など一部の人にとってだけ関係のあるものと思われているかもしれない。
この僕自身「数学が苦手だから文系」という非常に消極的な進路を選んだ1人だ。
まさか、そんな自分がここまでこの「管理会計」に救われることになるとは。
振り返ってみれば自分の職業人生は管理会計とともに歩んだ歴史だったことがわかる。
明星大学の中島教授のリサーチクエスチョン(RC)によれば「管理会計の導入は事業承継がきっかけとなる」となっている。
この機会に改めてこのRCについて僕なりの振り返りを記したい。
自分が今どん底にいることを知らせてくれたのは「会計」
何も難しいことではない。
「もう、こんな会社(このまま赤字垂れ流しなら)早めにたたんじゃった方がいいですよ」
20年来当社長岡生コンクリートを会計面からサポートしてくれている森会計事務所の森利彦先生の助言だった。
平成11年に宮本家に経営権が戻った有限会社長岡生コンクリート。
(僕が入職したのは平成13年4月2日)。
その時期の経営状況は惨憺たるものだった。
演劇や音楽ばかりに身を窶していた宮本青年が家業の生コンに戻った時に現実を教えてくれたもの。
それが、損益計算書(やキャッシュフロー計算書)という会計書類だった。
簡単に言えば「お客様から頂戴したお金が会社の財布にその1年でどれだけ残ったか」がわかる足し算と引き算で構成されているシートだ。
何も難しいことではない。
「儲かってない(赤字垂れ流し)」
「このまま続けば、倒産Death」
生コンクリートのようにフローが安定した業態であればその会計分析も多くの事例の蓄積の上固い手法(管理会計)が確立されている。
いわゆる生コン業としてどの部分が適正でどの点が改善が必要なのかを知らせてくれる会計書類、管理会計。
職業人生の最初に僕を「どん底にいることを認知させてくれた」のが管理会計だった。
新規事業ローンチ、不安定なフローの中で適切に現場を把握するためのKPI導入
「どん底にいるんだ」とわかればがむしゃらにもがくしかない。
一番不幸なのは「今どうなってるのかわからない」という状況だと思う。
見え過ぎてしまうのは確かに怖い。
生コンに関しては森会計の所属するTKCにも豊富な蓄積があった。
一方で平成17年ごろから始まった新規事業・透水性コンクリートの製造販売についてはそういった蓄積は皆無だった。
「何がどうなってれば儲かってるのか」
「どこまでが生コン(本業)の収益で、実際透水性コンクリートはどれだけ儲かってるのか」
「何をしたら(In Put)、どのような結果(Out Put)が得られるのか」
事業承継と同様、上記のような管理会計のニーズが発生したのは新規事業ローンチだったと思う。
新規事業も「承継」とは違うけれど、経営管理者としての僕にとっては「新しい事業を始める」という意味では類似した状況だった。
ひょんなきっかけで始めた新規事業「透水性コンクリート」事業に関する蓄積(管理会計手法)はTKCをはじめどこを見渡しても見つからない
平成13年当時は「後ろから崖が崩れてきてあとどのくらいすれば飲み込まれてしまう(倒産)かを知らせてくれた」会計。
そして、新規事業ローンチの頃に僕にとっての会計は「どこに行けば光のさすトンネルの出口がある(黒字化)かを知らせてくれる」ものだった。
「今、自分がどうなっているのか?」
Key Performance Indicator(KPI)という手段がある。
これも、管理会計の1要素だと思っている。
経営管理者にとって「組織全体が今どうなっているのか」を知らせてくれるモニターランプのような存在。
それが、KPIであり管理会計。
それらいずれも社内ではなく社外(取引先金融機関、私塾、会計事務所、コンサルタントetc)で手に入れることができた。
こうした社外との交わりは事業承継(あるいは新規事業ローンチ)のようなショックがきっかけとなってもたらされるものでもあった。
高度にカスタマイズされる管理会計
「自分たちがどうなっているか」
を把握できることはさらには、「自分たちはどうあるべきか」を知らせてくれる。
会計数字は何も社内だけではなく、社外にKPIを求めることもできる。
社会的存在である企業という組織体と周辺環境という社会経済とがどのように結びついているかを把握することも管理会計の醍醐味だと思う。
社会と自分たちの連動、相互作用を知る手がかり。
管理会計を基にして経営管理者は意思決定と実践を行う。
その意思決定と実践の結果(Out Put)はそのまま管理会計でモニタされる。
すると、組織構造は実際にはどうあるべきか「自分たちはどうあるべきか」がその繰り返しの中で見えてくる。
「自分たちの最大の貢献は一体何か?」という本質が削り出されてくる。
そして、その強みに経営資源を適切に配置(実践)することができるようにもなるはずだ。
友人でもある明星大学中島洋行教授が発表した論文の中で紹介してもらったことをきっかけに振り返った企業経営と管理会計についての雑な考察。
経営実務に携わっていない方にとっては「ちょっと何言ってるかわからないです」みたいな駄文だと思う。
ただ、多様化する社会の中で「社会的存在としての」僕たち(個人や会社や組織)としてもこれまで以上に社会との関係性は複雑になっていくのだと思う。
複雑な社会の中で自分たちだけは「これまで通り生コン屋です」というわけにはいかないはずだ。
社会(市場と顧客)の要請は日々さらにその複雑さを深める。
社会的存在である会社組織もその環境変化に順応して姿形を変えていく必要があることは自明。
そのヒントを示してくれるもの。
それが、管理会計。
管理会計のおかげで、社会(市場と顧客)は生コンに何を求めているかを知ることができる。
そのヒントをもとに「もしかしたら、こうしたら、市場と顧客に評価されるんじゃないだろうか」という仮説を立てる。
あとは、使い古されたPDCAだ。
仮説を実践してみて市場と顧客からの反応(KPI)を探る。
いちいちの実践は「市場と顧客が求めている形」への細胞分裂、変容となる。
流動性の高まった現代社会において、企業経営者や組織だけでなく一般全ての個人にとっても管理会計のような手段を用いて適切に「求められていること」を知ろうとする努力は必要だと思う。
社会的存在である以上、多様性を極める現代社会に必須な手段としての管理会計。
「鼻毛ボーボーで外出するモデルはいない」
それは、毎朝必ず管理会計(鏡)で自分の姿形をチェックしているから。
経験から「鼻毛ボーボー」は市場と顧客に評価されないことを知っているから笑。
普段とは随分テンションの違うテーマを取り扱ったため頭の中がとっ散らかってしまった。
それにしても、このたび当社長岡生コンクリートを研究の題材としていただいた友人中島洋行先生にこの場をお借りしてお礼を申し上げたいと思う。
こうした機会で来し方を振り返り、これからを考えることはとても貴重な体験でした。
引き続き経営管理実務者としてがむしゃらに事業に邁進して参りたいと思います。
「唯一絶対の評価者は市場と顧客」
この言葉を至言として活動をするならば、その評価をきちんと受け止めるための管理会計を引き続きブラッシュアップしていく必要があります。
宮本充也