2016/08/21
「建設産業におけるセールスの変化」
セールスとか物売りとか営業とかいろんな言葉があるけれど、
今はよく言われる「物が売れない時代」であって、
そんな環境で「じゃあ、売ってきてください」と言われる営業マンにとっては、
大変な時代になったと思う。
僕が身を置く建設産業にも御多分にもれずいい時代というのがあったそうで、
「作れば売れる」
時代が長く続いたらしい。
生コン組合の会合の昔話を聞いても、
「昔は仕事を押し付け合っていた」
とか、
「宮本君、それこそのぼり竜だったよ!」
とか、今じゃ考えられないような話をよく聞く。
そんな黄金時代をすごした建設産業の構造は先日紹介したIT業界と酷似していて、
めっちゃ縦型のピラミッド構造。
いい時代には民間・公共問わず財布のひもが「どばっ」と緩むので、
下層へそのお金が降っていって、一番底辺にいたとしてもいい暮らしができた。
「仕事を押し付け合っていた」
のだから、自爆とか自殺願望がない限り「まあ、そこそこの成功を収める」ことができた。
そして時代が変わり現在は人口半減社会へとつるべ落としで急降下している。
一営業マンの実感としても、経営者としてもだが、
受注に対しての負荷が相当ある。
「仕事押し付け合う」
なんて想像が全くできないくらいに「お仕事を頂戴する」ことはとても大変。
だから努力しない営業マンなんかさっぱりものが売れない。
お客様の方も目が肥えてきているし本来の価値を発揮している人でないかぎり、
財布のひもを緩めるなんてことがまるでなくなった。
ピラミッド型の産業構造は経済が伸びていく局面には秩序として働いてきたが、
如上の経済環境で今一度このピラミッド型の産業構造を理解すると、
「搾取システム」
と解釈することができるようになる。
つまり、上流工程にいれば「うわまえ跳ねるだけ」が可能だけれど、
下に行けば行くほど、
・比較され天秤にかけられ
・価値がなければ不当に叩かれ
・ダンピングに晒され
・努力が適正に認められない
不遇をかこつこととなる。
だから光る付加価値を持たない会社や営業マンは顧客企業に支持されず、
市場から退場せざるを得なくなっていく。
そんな市場システムにおいて下層に位置する資材供給業者→生コン屋。
どのように自らを護っているかというと、
・協組共販
という国で認められたカルテル(談合)という手段によって上流工程からの圧力に対抗している。
これ、事実です。
上流工程も下流行程も基本的にはみんな人であり家族や大切な人を持っている、
「優しい人」
なんだけれど、経済という組み立ての中に入ると、どうしても、
「搾取システム」
に加担してしまう弱い存在となる。
ジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」を彷彿とさせるような悲しい現実。
僕たち生コン屋のように、カルテルという自衛手段を持っている場合もあるけれど、
そうでない資材供給メーカーだって当然ある。
かなり専門的な話題となってしまうけれど、彼ら資材供給メーカーの生き残る手段として、
「スペック・イン活動」
(設計運動・設計図書折込・スペック営業などと呼ばれたりする)
という営業手段がある。
産業構造図の下層に位置する資材供給メーカーは、
自分たち製品の価値を直上のレイヤーに売り込むのではなく、
最上位に位置する「設計・コンサル業」に対して提案活動を行う。
「客の客にねじ込む」
この手法は、たとえばわかりやすく生コンにたとえて言えば、
「生コンを購入する工務店のお客さま(施主)に対して『長岡生コンから買いたい』と言ってもらうよう働きかける」
スタイル。
基本お客様は神様であるため、このスペック・イン活動はかなり強烈な効果を発揮することもある。
ピラミッドの底辺に行けば行くほど事業規模は小さくなっていく。
そして、スペック営業に訴える企業の中には大企業なんかもあり、
顧客に対して非常にぞんざいな態度をとるような場合も多く見かける。
「設計図書に使うように指示されてるんだから、お前は買うしかないんだよ、言い値で!」
という態度である。
人口半減局面では往時の機能も廃れ、
「搾取システム」として世知辛い機能を果たすようになってくるピラミッド型産業だと、
人心も乱れてくる。
顧客と供給元のやさしさベースのお付き合い
なんてものは過去の遺産であり、上記のような上下間での利益の食い合いが発生するようになる。
そんな今求められて居るのは確実に縦型ではない水平・横型の建設産業構造。
先日話を聞いたIT業界(構造が建設業と酷似)は建設業界よりも歴史は浅いけれど、
この水平展開に関しては先んじているようだ。
水平・横型の産業構造のカギは、
「Business to Consumer(B to C)」
にあるようだ。
法人営業という言語しか持たなかった僕たち建設関連企業にブレイクスルーの手本は、
もしかしたら産業としては後進でいろんな面でまだ未熟なIT産業にあるのかもしれない。
グリーやDeNAなどはIT業界が発展していく過程で新たなB to Cビジネスを確立させていった。
僕たち建設関連企業に従事するほとんどは、
B to Cをやったことがないばかりか、若干馬鹿にしているきらいがある。
「素人に橋やビルがわかるか」
という態度である。
ただ、考え方をずらして市場をずらしてもっとフレキシブルに自由に建設産業を眺めると、
新しい生き残りの在り方→Innovationの萌芽が読み取れるのかもしれない。
宮本充也